
「悲恋」でも幸せな愛の物語
『ムーラン・ルージュ』は、『椿姫』や『ラ・ボエーム』の物語を下地に描かれた、娼婦と青年の恋物語です。
下地になった物語がどういうものかご存知の方、もしくは娼婦との恋物語ということを考えれば、「悲恋」を想像する方が多いかもしれません。確かにニコール・キッドマン演じる娼婦サティーンは『椿姫』のような最後を迎えますから、見方によっては悲恋でしょう。
しかしこの映画の監督バズ・ラーマンは、シェークスピアの『ロミオとジュリエット』をロックな現代劇によみがえらせた人。ただの悲恋で終わらせるはずはなく、そしてこれを何度も観ている著者も悲恋とはとらえていません。
エンドロールを見守る時には頬にいく筋もの涙をつたわせながらも、口元には微笑みが浮かぶ、幸せな愛の物語としてご紹介したいと思います。
当時の舞台や衣装を再現
映画の舞台はフランスのパリ・モンマルトルに現在もある、キャバレー『ムーラン・ルージュ』。
時代はボヘミアンがそのキャバレーを根城にしていた20世紀初頭です。ユアン・マクレガー扮する上流階級出身で作家志望のクリスチャン青年のモノローグから始まり、安宿に落ち着いたところから物語は展開していきます。
クリスチャン青年は実在しませんが、彼をムーラン・ルージュに引きこむ、ジョン・レグイザモ扮する画家のトゥールーズ=ロートレックやキャバレーの支配人ハロルド・ジドラーは実在します。
また劇中使用された舞台や衣装は、こだわりのラーマン監督らしく、当時の写真や絵画を元に出来るだけ忠実に制作。特にショーの踊り子の衣装は、ため息をつきたくなるほどオシャレで色鮮やか。
メイキング映像によれば、コルセットで締め付けるかなり苦しいものなのですが、もし目の前にあれば「ちょっと着てみようかな」と血迷ってしまいそうです。
ヒット曲を主演の二人が謳いあげる
この映画は愛の物語であると同時にミュージカルでもありますから、劇中にはいくつもの歌が使われています。
有名どころから上げていくと、
『Lady Marmalade』。クリスティーナ・アギレラやピンクのコラボ曲で、グラミー賞を獲得しました。
『Material Girl』は、DIVAマドンナの1985年のヒットソング。
『Your Song』はエルトン・ジョンが1970年にリリースしたもので、
『I Will Always Love You』はホイット・ニーヒューストンが歌う映画『ボディーガード』のテーマ・ソングですよね。
その他、ビートルズの『All You Need Is Love』にキッスやフィル・コリンズのヒット曲と数え切れないほど。
そしてそれらの曲のほとんどを高らかに、時に切なく歌いあげているのは、主演のユアン・マクレガーとニコール・キッドマンのお二人。吹き替えでも加工したのでもなく、ボイス・トレーニングを受けた彼ら本人が歌っています。うん。天は二物も二物もこの二人には与えたようです。
ロクサーヌのタンゴ
『ムーラン・ルージュ』は時にコミカルに、時に激しい見せ場の連続です。ただ、筆者が繰り返し見てしまうのは、「ロクサーヌのタンゴ」のシーン。愛の情念と、嫉妬の炎、それに焼かれる男を醜く、同時に美しく描いています。
ヴェイオリンのすすり泣きから、アルゼンチン俳優のさびた歌声。見つめ合うのではなく睨みあう男女二人のタンゴは、次第に群舞になっていきます。
「愛していると言う僕をどうか信じて」と歌うユアン・マクレガーの歌声も大事ですが、歌いながら今にも泣きそうな彼の顔にもご注目。著者が思う「泣き顔が似合う俳優」ベスト1にふさわしい、情けなくも愛しい顔に、あなたもキュンとなるはず。
作品情報
原題:『Moulin Rouge!』
出演者:ユアン・マクレガー、ニコール・キッドマン、ジョン・レグイザモ
監督:バズ・ラーマン