むびれぽ

フィルムを喰らう!~感情中毒の巣窟~

ある日犯人に仕立て上げられた男の逃亡劇『ゴールデンスランバー』

ある日犯人に仕立て上げられた男の逃亡劇『ゴールデンスランバー』

先に原作を読んでから

気づけるものから気付けない物まで。幾重にも伏線のちりばめられたこの作品は、ミステリーの名手・伊坂幸太郎原作の映画らしく、一気呵成にラストまでかけぬけます。ネタバレを度外視して先に言ってしまうと、映画では最後まで「真相」がはっきりと語られることはありません。

この作品のストーリーをごくごく簡単にご説明すると、巨大な「陰謀」に巻き込まれて首相暗殺犯にされてしまった男の逃亡劇です。そうですね。流れとしては、ハリソン・フォード主演の『逃亡者』と似ているでしょうか。そしてその陰謀に加担しているのは誰なのか。誰が敵で誰が味方なのか、物語が終わるまで、いえ、終ってからも明かされない謎がいくつもあって観た後もやもや感が残るところは、レオナルド・ディカプリオ主演の『シャッターアイランド』に似ています。

と言っても、その2作よりはこのビートルズの名曲をタイトルにつけたこの映画は、明るいコミカルなシーンが沢山ありますので、構えなくてすむでしょう。

そしてミステリー物を紹介する場合、通常でしたら原作を読む前に映画を観るようお勧めしますが、この作品に関しては映画だけでは分かりづらい、語られないディテールが多々あり、何より映画では語られなかった首相暗殺犯が書かれていますので、先に原作を読む事をお勧めします。

芸達者な役者たちが総出演

さて。この作品は、撮影されたのと同じ、仙台が舞台です。仙台市内をパレードしていた首相の車が爆破されたところから、物語が急展開します。

主役である逃亡者・青柳を演じるのは、すっかりNHK大河ドラマの顔となった堺雅人。真田氏のころに比べればまだまだ初々しさのある彼の笑顔は、いいですね~。ヒロインの大学時代の元カノ・晴子を演じるのは、。元カレが首相暗殺犯としてテレビで報道されちゃっているのに「なにやってんの……」なんて呆れた顔をするだけの反応に、なんだか救われます。

他の出演者もそうそうたる顔ぶれで、青柳を追い詰める佐々木警視正役に香川照之さん。いや~彼の憎らしいぐらいの悪役っぷりは相変わらずお見事。現在は携帯電話のCMでお馴染みの浜田岳さんが快楽殺人犯であるキルオを演じています。キルオは青柳の逃亡に手を貸してくれる「善人」キャラのはずなのですが、どこか焦点の合っていない瞳と妙に明るい笑顔が彼の異常性を垣間見せ、それを演じる彼の力のほどがわかります。

ほかにも、青柳を借金棒引きと引き換えに罠にはめた森田役の吉岡秀隆。彼の情けない顔もあいかわらず秀逸。そしてほんのちらりとしか出てきませんが、青柳の父親役で登場する伊東四郎さんは、乱暴な口ぶりながら息子の無実を信じる父親を見事に演じておられて、その演技だけで、この作品を見る価値があると思わせてくれます。

「国家の陰謀」だの、「この事件の裏には大きな権力が……」なんて言葉が随所に出てき、主人公が実際にあっという間に被疑者に仕立て上げられ、信じていた人間に裏切られていくうち暗い気持ちになってしまいますが、「あぁ、こんなお父さんがいるなら青柳は大丈夫!」なんて思わせてくれる安定感です。

他作品も映画化

この作品以外にも『陽気なギャングが地球を回す』や『グラスホッパー』など、伊坂作品は多数映画化されています。いずれも原作そのままではなく、映画ならではの演出を施しつつも、伊坂作品独特の混乱したまま疾走していく感じが上手く表現されていると思いますから、この作品を気に入った方はぜひご覧ください。

作品情報

出演者:
監督:
原作:『ゴールデンスランバー』伊坂幸太郎著

ABOUT THE AUTHOR

Hiro Miyama
はじめまして。作家兼ライターの海山ヒロ(みやまひろ)と申します。

物心つく前から映画好きの両親に連れられ、映画館へ。そして家族のだんらん時に見ていたのは、各放送局の洋画劇場でした。おかげでしっかり映画好きに育ったわたしは、今日もまた、世界の片隅で映画への愛をこうしてつづっています。

ついつい口ずさみたくなる様な音楽に、悲喜こもごもの物語。そして素晴らしい衣装や舞台装置に夢のような風景が詰まった映画は、総合芸術です。
そんな数々の名画達に出会うお手伝いを、すこしでも出来れば嬉しいです。
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