むびれぽ

フィルムを喰らう!~感情中毒の巣窟~

『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』の地ハバナを歩く

『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』の地ハバナを歩く

』の地へ

道端には無造作に停められた、マニア垂涎のアメリカン・オールドカー。ライ・クーダーがゆっくりバイクを走らせながら眺めていた、色あせたパステルカラーのコロニアル風建物が美しい路地。あぁ。憧れていた風景がいま、目の前にひろがっている。なんて幸せなんだろう。

。かつてキューバのハバナで花開いたクラブ文化の頂点。夜毎にダブルのスーツにボルサリーノで決めた紳士が、シルクやサテンのドレスを翻した匂いやかな淑女が集い、一晩中音楽に酔いしれて踊り明かしたあのクラブ。アメリカによる経済封鎖とともに閉鎖され、クラブのみならずキューバ国内でレンジェンドとして尊崇されていた歌い手や演奏家は、忘れ去られていきました。

そんな彼らを探し出し、再び世に送り出したのが、ギタリストのライ・クーダー。そしてその探求の旅と、彼らが結成したグループ「」が一大旋風を巻き起こし、ついにはアメリカのカーネギーホールで行なったコンサートの模様を活写したドキュメンタリー映画、それが、『』なのです。

2010年の年末。その『ブエナ・ビスタ~』の舞台である、キューバのハバナをわたしは旅してきました。

ゆったりと時間の流れる街、ハバナ

2017年現在では、アメリカが主導する経済制裁はすでに解かれ、キューバは首都ハバナを中心に外国資本のホテルやレストランがどんどんできていると聞きます。

しかし我らが訪れた2010年は、アメリカとの国交は回復しておらず、空港のパスポートコントールでは「キューバの入国スタンプを押すと米国に入れなくなっちゃうから、押さずにこれで渡すね」と紙を渡されました。

とは言え、そんなきな臭い国際情勢を感じさせる空港を一歩出れば、そこにひろがるのはのどかな横長の風景。開け放したタクシーの窓からは、素朴なグラウンドでサッカーに興じる少年達の歓声が聞こえてきます。

街中にはいれば、制服姿もりりしい警官のお兄さんと、リキシャカーのお兄ちゃんが仲良く信号待ちをしています。その様を写真に収めようとカメラを構えれば「どうせなら正面から撮りなよ。へい! そこの警官さん、ちょっとこっち向いてくれよ!」なんてタクシーの運転手が、窓から身を乗り出し、クランクションを盛んに鳴らして声をかけてくれる。あくまでのどかな、ゆったりと時間の流れる街、ハバナ。

往時を偲ばせるホテル

ハバナの拠点としたのは、旧市街の一角にあるホテル・プラザ。

薄いピンク色の壁に緻密な花の彫刻で飾られた高い天井。設備は古くとも美しく優雅なこのホテルは、ロビーに生演奏のきけるバーもあり、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ華やかなりし往時にタイムスリップしたような心地になります。

★HOTEL PLAZA★
住所:Ignacio Agramonte No,267
TEL:(537)860 8583/89 FAX(537)860 8591

「歴史美観地区」はツアーで

映画でも登場し、なにより往時の雰囲気を色濃くのこす「歴史美観地区」は、もちろん個別に回ることもできますが、キューバの名産品である葉巻工房見学に生演奏が聴けるレストランでのお昼ごはんがついた一日ツアーがあります。まずはそちらで全体を把握し、その後じっくり見たい場所を個別にまわる事をお勧めします。

わたし達が参加したのも、そんなツアーの一つ。英・仏・スペイン語を話す美しきガイドさんに連れられ、葉巻工房や港、チェの壁画のある革命広場、そして美観地区をのんびり観光。観光の途中に立ち寄ったカフェでは、サックス・コントラバス・クラリネットのトリオが甘い調べを聴かせてくれました。

このカフェ以外でも、ホテルのカフェでお客さんが飛び入りでファドを披露するなど、街のどこかで常に歌や演奏が聴こえてきて。電子音に囲まれた日本の都市とは違い、生の音楽が生きている。そう思わせてくれる街でした。

これぞ“Buena Vista(素晴らしい人生)”

そしてツアーのラストを飾るレストラン。我ら一行はそこで、『』のテーマソングとも言える、『Chan Chan』を聴くことができました。そうです。映画の地で、現地のプロが演奏するのを目の前で聴けたのです。リクエストをしたあの曲が流れた瞬間。わたしはその瞬間に、大げさではなく「これで死んでもいいや」と思いました。

手が痛くなるのにも気づかず手拍子を取り、時折涙をぬぐいながらこっそり横に座る父をうかがえば、その目尻にも涙が、ひと筋、ふた筋。ちなみに妹は演奏の途中で踊りだしたパーカッション奏者と一緒に踊っていました。夢のような一幕。生きていてよかった。これこそ“Buena Vista(素晴らしい人生)”。

たとえ街が変わっても

本当に残念ながら、映画に登場した初期メンバーのコンパイ・セグンドさんやイブライム・フェレールさん、ピオ・レイヴァさんなどはすでに亡くなっています。でも、彼らの音楽は永遠です。そして外国資本が入ったことであの街がどんどん変わっていくとしても、フィルムと、なによりわたしの記憶に焼きつけられた風景もまた、永遠です。あそこで聴いた『Chan Chan』は、いまでも耳の底で鳴り響いています。

さぁ皆さん。大好きな映画で観た地へ、出かけましょう。映画には魔法が込められていますから、撮影した地に行って、もしかしたら失望させられる事もあるかもしれません。来なきゃよかったとすら、思うこともあるかもしれません。

でも逆に、わたしがあの時体験した様な、夢のような出会いがあなたを待ちうけているかも、知れないのです。

さて。準備は出来ましたか? では、いってらっしゃい。

作品情報

原題:『Buena Vista Social Club』
出演者: 、ピオ・レイヴァ他「」メンバー
監督:

ABOUT THE AUTHOR

Hiro Miyama
はじめまして。作家兼ライターの海山ヒロ(みやまひろ)と申します。

物心つく前から映画好きの両親に連れられ、映画館へ。そして家族のだんらん時に見ていたのは、各放送局の洋画劇場でした。おかげでしっかり映画好きに育ったわたしは、今日もまた、世界の片隅で映画への愛をこうしてつづっています。

ついつい口ずさみたくなる様な音楽に、悲喜こもごもの物語。そして素晴らしい衣装や舞台装置に夢のような風景が詰まった映画は、総合芸術です。
そんな数々の名画達に出会うお手伝いを、すこしでも出来れば嬉しいです。
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