むびれぽ

フィルムを喰らう!~感情中毒の巣窟~

このへんないきものは、まだぜひ日本にいて欲しい。『となりのトトロ』

このへんないきものは、まだぜひ日本にいて欲しい。『となりのトトロ』

もしトトロが目の前に現れたら。

もしトトロが目の前に現れたら。サツキやメイのように胴体に飛びつく力はないので、背中に乗せてもらおう。そしてネコバスに乗る際には、お昼寝毛布持参で。あの足が沈むほどふかふかの毛皮ならばたとえ床部分に寝転んだとしても、天国の寝心地を味わえるに違いない―――。

日本が誇るスタジオ・ジブリの、宮崎駿監督のこの作品を観た事がない、もしくは知らない日本人って、いるのでしょうか? ちなみに筆者はそんな方には会ったこともいると聞いたこともありません。逆に、思わず筆者が冒頭書き連ねてしまったように、「もしトトロと会えたら……」なんて妄想しちゃった方は、かなりいらっしゃるのではないでしょうか。

子供ならば、トトロの胴体に飛びつくだけでなく、あの大きな木の上で一緒にオカリナを吹いてみたいと考えるかもしれません。そして、ちょっと疲れた大人ならば、あの日本の原風景のような里山の、メイとサツキの家の縁側で、おばあちゃんが作ってくれたぼたもちを食べたいと焦がれるかもしれません。

理想の優しい風景

『となりのトトロ』には、そんな日本人にとって懐かしい、優しい風景ばかりが封じ込められています。家よりも大きな裏の木々。青々とした田んぼの上を吹きわたる風。風が通るように障子を開けはなった向こう、蚊帳越しに見えた青い月の光。風鈴の音。古い蝙蝠傘。足がまだ届かないから立ちこぎして乗る、お父さんの自転車。太陽をいっぱいに浴びて育ったキュウリにトマトを沢の水で冷やして……。

遠い昔、田舎のおばあちゃん家で体験した様な、それらの風景。実際には「田舎」がない都会生まれ都会育ちでも、「日本の田舎」と想像したら、自然に浮かんでくるような。いまはもう、失われつつある光景。そしてそんな風景の中になら、トトロなんていう不可思議な生物がとなりにひょっといても、何ら不思議ではない。宮崎監督がそう語りかけている様な気がしませんか?

更に言えば、物語の登場人物にも、監督の思いが込められている様な気がします。

お母さんが病気で入院しているため、小学6年生にして家事と年の離れた妹メイの世話を文句も言わずするサツキ。

そんなサツキに憎まれ口を叩きつつも、メイがいなくなった時には自転車で駆けずり回ってくれるカンタ少年。そしてなにかと助けてくれる近所のおばあちゃん。そんな彼らを通して「困った時はお互い様」の精神が息づいていた、そう思われていたかつての日本への情景が感じられるのは、筆者が疲れた大人になってしまったからでしょうか?

噂の都市伝説の真相は……?

とまぁそんな風に、優しい懐かしい日本を描いているこの『となりのトトロ』にはなんと、都市伝説があります。しかもホラー系の物が。

いわく、「物語の終盤でメイが迷子になりネコバスに乗ったサツキに見つけてもらうが、本当は池で溺れて死んでいた。サツキはメイを捜すために冥界を彷徨っていたのであり、トトロは少女達をあの世へ連れ去る、死神」。うん。夢も希望もないストーリーですね。

このトンデモ都市伝説が流れたのは、映画の最後の方ではサツキとメイに影がなかったから。「影がない=生きていない」と誤解されたわけですが、「作画上で不要と判断して略しているだけ」だとジブリの公式サイトで発表されています。

宮崎駿監督やスタジオ・ジブリの皆さんも、自然の美しい描写をしたいが為に省略した事が、そんな誤解を生むとは思わなかった事でしょう。この都市伝説を信じてしまっていたそこのあなた。ご安心ください。この映画は、ちょっと不思議なほのぼのアニメ映画です。ご家族みんなで楽しくご覧いただけます。

作品情報

出演者(声): (サツキ)、(メイ)、(お父さん)、(お母さん)、(おばあちゃん)
監督:
ノベライズ:『小説 となりのトトロ』 (アニメージュ文庫) /久保つぎこ著

ABOUT THE AUTHOR

Hiro Miyama
はじめまして。作家兼ライターの海山ヒロ(みやまひろ)と申します。

物心つく前から映画好きの両親に連れられ、映画館へ。そして家族のだんらん時に見ていたのは、各放送局の洋画劇場でした。おかげでしっかり映画好きに育ったわたしは、今日もまた、世界の片隅で映画への愛をこうしてつづっています。

ついつい口ずさみたくなる様な音楽に、悲喜こもごもの物語。そして素晴らしい衣装や舞台装置に夢のような風景が詰まった映画は、総合芸術です。
そんな数々の名画達に出会うお手伝いを、すこしでも出来れば嬉しいです。
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